ROCKIN'ON JAPAN 1992.9

先日倉庫から発掘してきたJAPANの記事を
これから出来るだけアップしていきます。
今回の記事を最初に選んだのは、
このころのライブ映像をひさびさに見て
どうしてもアップしたくなったから。



やっぱり違った、6月15日のHEAVENと7月22日のHEAVEN


インタヴュー=市川哲史


 6月15日大宮市民会館を皮切りに7月22日渋谷公会堂まで、計16本というデビュー・ライヴ・ツアーとしては異例の全国ツアーを終えたHEAVENは、例によって例の如くというか、生き急ぐかのように曲作り合宿で伊豆に籠っている。「もうとにかく新曲を作りたくて作りたくてしょうがない」と言っていたのは中村敦だが、9月から再び20本という長期ツアーが控えているだけに、本音としては今すぐにでもレコーディングを始めたいのではなかろうか。
 私も一度はその様子を見学したい。「朝ちゃんと起きて、三度の飯も自分たちで作り、後は音楽三昧」という、なんとストイックな姿勢。普段が酒も女も大好きな本能野郎だけに、その音楽に対する真摯な姿に私は静謐さすら覚えるのであった。「オナニーすらしませんからねえ」。偉いぞ、中村。
 今月はライブ評を書こうと思う。8月号で初日の大宮は既に書いたが、生活というか人生と同時進行で変化する、まさに「我流ブルース・バンド」HEAVENの事だ。ツアーの最初と最後ではかなり違うんだろうと私は読んで、最後の渋公も観に行ったのだ。確かに変貌を遂げている。そこで比較検討する為にも、合宿中の二人に電話してそこら辺訊いてみた。
・もしもし、市川です。
「あ、どうも塚本です。中村はまだ寝てるんですよ。こいつ絶対起きないから、起こしても」
 おいこらてめえ。規則正しい生活野郎がなんで昼の2時にまだ寝とるんじゃ。おんどりゃ、オナニーもしとるな? さては。


塚本晃version
・演ってる本人としては、ツアーの最初と最後で自分たちに変化を見つけてますか。
「うーん、最後の方はちょっとね、考えすぎたかな・・・中盤が一番良かったかな」
・いきなり今回の企画を根底から潰しましたな。
「すいません全く(笑)」
・考えすぎたとは?
「(笑)考えてねえ奴に見えるでしょ? 考えてるんですよ、これでも」
・例えばどういう事を考えすぎたんですか。
「そうですね、だから・・・うーん、いやちょっと電話だと難しいな・・・もっと凄い個人的なとこに入っていっちゃうんですよね、だんだん演ってるうちに」
・よくわかんない話ですが。
「あのー、中盤まではずーっとバンドのノリだとかをとりあえず気にしてみたんだけど、だんだんだんだん個人的なとこに帰ってっちゃって」
・するとステージ上での飲酒量も増えると。確実に増えてたぜ、二人共。
「俺は呑んでないんですよ、嘗めてるだけ(笑)。ちょっと口を濡らしたいなと思うだけで」
・(笑)選曲は同じなだけに、こなれ方が凄く顕著だったけれども。
「そうですかね(笑)」
・うん。大宮のころはまだ、「HEAVENとはこうだ」という事を見せようという意思が凄く見えたよね。
「ああ、もうそれだけ! だったからね。無意識のうちに意識してたんだろうね。やっぱり『演ろう』っていう長年の夢で寄り添ったバンドじゃないからさ、他のメンバーも。だからそういうギャップをどうやってステージの上で埋めようか、とは考えたかな」
・もっと言うと、大宮ではまだシェイディ塚本が見えたけれども---HEAVENである事を見せようと意識した分---渋公では一切無くなって、もう完全にHEAVENというか。
「あ、そういう風に見えました? 何かこう嬉しいですね」
・だからこそ演ってる本人がまず、愉しそうに映る。
「自分の気持ちの中にはまだ、ぎこちなさは沢山あるんだけどね。でもそう見えるのなら、凄い本意かな俺達の。やっぱりまだ全部食い潰せてるわけじゃないから。まあライヴ演っててずーっと愉しかったんですけどね」
・それよそれ。
「ただ・・・愉しいだけのライヴっちゅうのも何か嫌でさあ」
・じゃああと何が必要になるのよ。
「んーとね、それは・・・だからもう、全く個人的な事かもしれないですね。自分の中身の問題と言うか」
・その個人的な事ってのが訊きたいなあ。
「・・・いやちょっと、やっぱ顔見ながらじゃないと話せないよ。それは無理だよ(笑)」
・単に照れてんじゃないの? 人生同時進行バンドなんだから、愉しいときには愉しさが見えて当然じゃん? 愉しいんでしょ? 照れてるだけでしょ?
「いやいや全然、そんな事ないんですけどね」
・よっしゃ、次は絶対逢うぞ喋って貰うぞ。
「(苦笑)・・・それが出来ると助かります」


中村敦version
・相変わらず新曲がバカバカ出来てますか。
「湯水のようには出来ませんよ(笑)」
・さっき塚本に訊いたら、最近凄くイイ状態で愉しくてしょうがないらしいですけども。
「うんうん。そういう感じはあるけど」
・やはりツアー1本消化した事の影響ですかね。
「そうなんでしょうね、自覚は無いけど」
・相変わらず自覚無いなあ。
「無い無い」
・で私は大宮と渋公を観てですね---。
「あまり変わらなかったんじゃないスか?(笑)。自分の中では渋公が一番良かったけど」
・そりゃどういう判断基準でだ?
「まあ・・・ツアー中は愉しいって感覚がまだあったけど、それからは愉しいライヴじゃなくて、やっぱりもっといいライヴやりたいと思ってたから。そういう意味で、自分のイメージの中にずーっといられた時間は渋公が一番長かったかもしれない」
・というか唄を聴かせる部分が増えてたじゃない、渋公ってさ。それが良かったと自分で思えるとこなんじゃないの?
「あ、本当ですか?そういわれると嬉しいですね」
・素直に喜んでおります。とにかくさ、ロックンロールはだらだらしてないといかんと思うのよ。でも日本だとキチキチ組んじゃうから、盛り上がんないんだよねえ。HEAVENの場合、唯一自然体でだらだら出来るからね。一歩間違うと単なるいいかげんな奴らなんだけれども(笑)。
「ああ、キチキチはやっぱり苦手だからねえ(笑)。素直に演るしかないっスからね。頭で考えたらもう出来ないだろうし」
・意識せずに演ってると。
「いや、意識してますよ。だから、そうなりたいから演る時には考えないっちゅうか。その為の準備を沢山するという事だから」
・今回の16本、いつでもどこでも大体納得出来るテンションは保てましたか。
「やーっぱ、百発百中っちゅうわけじゃないですけど」
・いやHEAVENみたいなバンドはさあ、当たり外れがあった方が「らしい」んだよ。
「ああ。そういう風に、外れた時は後で思いますけどね(笑)」


次のツアーも・・・愉しそうである。当たっても外れても、恨んじゃいけない。HEAVENは。