B-PASS 1993.12 塚本晃インタビュー


文・B-PASS Editor


先月敦に会う直前に届いた「さらさら」のカセット・テープをもうかれこれ34回くらいは聴いただろうか.....?12月1日に発表される、このHEAVEN初のシングル曲を書いた塚本晃。彼は今どんな心境で音楽と向き合っているのだろう。ヴォーカリストとかギタリストとか、そんな枠はとっくにどこかへ置いてきてしまった彼等のことだ、想像は付くけれど。


この取材を行ったのは11月2日、場所は東京・銀座の音響ハウスというレコーディング・スタジオだ。おわかりと思うがアルバム録音もほぼ終盤というトラック・ダウン中。とはいえすべて取り終わった音源をミックスする緻密な行程の真っ只中だった。エンジニア&マネージャーが十数時間かけて一曲ずつの音色を整え、バランスをアレンジし、定位を決めていくのだが.....まあ敦と塚本の二人はミックスが終了した頃(だいたいが夜も深まった時間)スタジオに現れ、仕上がった音に対してシビアな意見を述べては帰っていくという時期なのだが、果たして今回のレコーディング、そしてシングルに決まった塚本の作詞作曲による「さらさら」はどのような物となったのか、塚本とサシで久しぶりに話してみた。





・今回はほぼ完全に個人が独立した形で曲を作ったんだってね。
そうだね。ファーストの頃は敦が詞を書き、俺が曲を書くっていう.....前のバンドからのそういう流れをミックスした形で演り始めた頃で。次のアルバムの頃からひとつの詞を二人で書いたりとか、何も無いところから二人で演ってみようとか.....ある種、実験的な物を演ってきたじゃない?でもここへきてその作業は必要なくなったっていうか、もう絶対的に違う人間として相手を評価して、判断するようになってさ。だから例えば敦が自分に何の疑いも持たずに”これだ!”って出した物に対してNOを出す意味も必要もなくなってきちゃったんだよね、お互いに
・以前”俺はもうギタリストなんて呼ばれる必要はないよ”って言いはじめた頃から、こうなる予測は出来てたけど(笑)もう誰が作詞者でも誰が作曲者でも誰がヴォーカリストでも関係ないっていうか、出てきた音が良ければそれでいいっていうところまで完全に来たんだなあ。
アルバム聴いてね、面白いよ
・もちろん! で、その前にシングルとして選ばれたのが「さらさら」という曲なんだけど。アルバム用の15曲の中から何故これが選ばれたの?
はは、分かんないよ。良かったからじゃねぇ?たぶん
・例えばこの曲がアルバム全体の雰囲気を象徴しているとか、この曲が一番ポップだとか、この曲が今の時代の流れに合ってるとか、この曲が一番HEAVENらしいとかさ、いろいろ選曲基準はあると思うんだけど.....実は分からんのだよ、何故これが選ばれたのかが(笑)。
そお?
・あの.....なんかこう、これがシングルってのはもったいないっていうか。
うん、もったいないっていうのは良い言い方だねぇ(笑)。でも俺も....良いと思うよ
・アルバムの中ではどんな存在の曲?
..........分かんない
・アルバムを全部聴いたら何故これがシングルかってのは分かるのかなあ。
何となく思うような気はする
・あ、そう(笑)。結構この曲は混沌としてる印象があるんですな、希望の光を求めてる的な。で、そういう感じもあるけど何処かに自分の確固たる物を持った奴が”どんなことがあってもさらさらと流れていく時間や世界に対して、俺は俺で行くしかないんだ!”と冷めたクールな視線で宣言してる歌であるような気もするし.....。
まあ俺の中身はきっとそんなんだろうから.....そんなことぐらいしか考えてないだろうから。もしそう感じてくれるんだったら多分そうかなっていうくらい。まあでもハッピーな感じの気持ちは流れてるよ、どんな曲でもそうだけどね
・時間をかけて何度も何度も聴いて、ちょっとずつ分かってくのかなっていう曲だと思うんだよ。だけどその分逆にアレンジが強力って言いますか(笑)、ノスタルジー感あふれる冒頭のピアノ伴奏が入るわ、QUEENブライアン・メイばりの鳴きギターがかぶさるわ.....。
はははは!
・で徐々に演奏も混沌としていくけど、バックではラッパが鳴り.....それも元気が出るラッパ!
そうなんだ?
・そう聴こえる(笑)、うちの編集長は”プログレだな”って言ってましたが。
はは、俺はプログレって知らないけど.....もう、だから自分が聴いたときに”おお!”と思うような物が自然に出るからね。音楽はもう完全に遊んじゃってるって言うか、タブーが無いからねえ。なんかインチキかもしんない
・インチキ(笑)。でもあの、構成も複雑だし、異様に目まぐるしく盛り上がる曲だよ。
穏やかな流れだと思うけどなあ.....まあ途中までピアノで作って、その先をギターで作って.....最後の段々昇ってくところはコンピュータで作って.....結構変な作り方したな、はは。俺もこの展開は予想がつかなかったけどね
・決してニンジンかなんかを刻みながら、一曲通して鼻歌でうたえる曲じゃないよな。
いや俺なんかはまさにそれが出来る曲だと思うけどね(笑)、俺の感覚の中ではまったくそれ! 今もうみんなこれだけ可哀想な音楽聴かされてるわけだからさ、この曲ぐらいのやつは聴ける状況じゃないと可哀想だなあって思うし
・はは.....でも凄い曲だよとにかく。みんな驚くだろうな”ゲッ”とか言って。カップリングになった「せめて」.....いや「HAPPY」か、これだって”んええええ!?”、みたいな曲に変貌したしなぁ去年のツアーん時よりは.....てことはアルバムの方はもっと凄いっつうことになるんだ?
もうワン・コードだけとかねえ、何だこれ、何でここにこれが?みたいな曲もあるし。早く聴いて欲しいよ。でも、いや.....うん何でもいいの、曲がどうこうっていうのは本当にあんまり思わなくなっちゃったな。そこでいかに自分が遊べて、自分で聴いたときに.....黙って聞き惚れてられるかって感じじゃん、それが出来れば幸せなわけ


なんか先月の敦とまったく同じこと言ってる塚本だった、だがとにかく感じは分かった気がする。想像を絶するケタ外れの音楽、だけどそこに居るのはあくまでもいちリスナーとして音楽を楽しんでる二人。「さらさら」聴いてアルバム待ってるぞ。