HEAVEN『快晴予報』ディスクレビュー by 兵庫慎司

■ギターを持ったセザンヌ
「絵ってねえ、例えばセザンヌでも誰でも長い事かかって絵を描いてるでしょ? 下手な絵描きっていうのは絵ってすぐにできちゃうんだよ。あんなに描いてはいられないんですよ。という事はねえ、僕達には見えてないものがあの人達には見えてるわけ。だからあんだけ一所懸命描いてるんですよね、自分に本当に見えてるものを本当に出そうと思って。だけど、僕達には実に浅はかなものしか見えてないからすぐにできちゃうわけ」。以上、弊社刊『日本の三人の演出家』掲載の黒澤明の発言なのだが、HEAVENというバンドにはこの上手い絵描きが当てはまると思う。何故こんなに歌詞とも詩ともつかぬ長い言葉で歌わなければいけないのか。何故ありとあらゆる音楽性を詰め込み、しかもそれが互いに融合するのではなくスパークして飛び散っているようなサウンドでなければいけないのか。何故決して軽い気持ちでは聴けない、スピーカーの前に正座して耳を傾けなければいけないようなアルバムなのか。そうしなければ、中村と塚本に見えている地点を描けないからだ。だからHEAVENのアルバムを聴き通すのはすごく疲れるが、疲れる価値のある作品を作れるのだ。ただし、今作での中村はあまりにもぶっとびすぎていて正直ちょっとつらい。 しかし、ぶっとびながらも聴き手にヒントを残してくれる塚本がそれをフォローする、今までで一番いいバランスになっている。余談だが、塚本の歌い方が1枚ごとに故ARB石橋凌に近づいて来ているのが、個人的に嬉しかった。 (兵庫慎司)







快晴予報

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